2.気持ちよく暮らせる素敵な間取り

家づくりの中でも間取りは、たいへんでもあり、楽しくもある悩みどころです。他のことでは黙っていた家族のメンバーも「自分の部屋は……」と気になって、口出ししたくなるところでもあります。「お兄ちゃんの部屋のほうがいいな」「待て待て、お父さんの書斎は……」。でもちょっと待って、間取りは陣取り合戦ではありません。

なまじ不動産探しに慣れてしまうと、ついつい「何LDK」の部屋数がまっさきに浮かびがち。でも家族が気持ちよく暮らせる、便利で豊かな間取りは、部屋数だけでは決まりません。

 

夢を語ることが間取りの第一歩


夢と言っても絵空事ではなく、具体的な生活のイメージです。「こんな趣味を楽しみたい」「親子のさりげないコミュニケーションを大事にしたい」……新しい家でどんな生活がしたいか、大事にしたいものは何か。これが間取りの第一歩です。設計するのはプロの設計者でも、大元になるのは建てる家族の思いです。

とは言っても、いきなり家族で話し合って結論を出すのは無理というもの。そこがプロに相談する利点のひとつでもあります。第三者をはさんだ方が、自分たちの生活を冷静に見ることができるからです。相談を重視する工務店では、ここが家づくりのベースと考えて、特にていねいに対応してくれます。

多くの工務店では「新しい家への希望」を書くヒヤリングシートなどを使って、一人ひとりの希望や思いを聞き取ります。ていねいなところでは、いったん家族全員を集めて希望を聞き、その後一人ひとりに別々に会って話を聞き、その後あらためて全員を集め、希望を並べて優先順位を決めていきます。特に大きい子供がいる家族や、親世帯との同居では、じっくりホンネを聞き出しておくことが大事。手間ひまがかかるようでも、結局はその方が家族みんなが心地よく、愛着を持てる家になるからです。

もちろん広さにも予算にも限りがありますから、何もかも詰め込むことはできません。ですから「優先順位」を決めることが大事です。優先順位を決めるのは、家族の話し合い。それでもプロの設計で、無理と思ったことが両立できることもあります。

 

プロの力を借りて家族の「夢」を具体化しましょう

 

例があれば、イメージが浮かぶ


新しい家でどんな生活がしたいか、その夢を描くことが間取りの第一歩と言いました。でも、頭の中で生活のイメージを描こうとしても、煮詰まってしまうこともあります。それなら新しい家の間取り図を、自分なりに描いてみるのもひとつの手です。自分で描いた間取り図がそのとおりに実現することはまずありませんが、それでも、間取りを考えるステップとして決して無駄ではありません。設計者に見せて「ここにこだわりたい」という希望を伝えるひとつの方法にもなります。

また相談が始まると、設計者の方でもいろいろな家の事例コレクションを持っていて、見せてくれます。これも新生活のイメージを描く手がかりになります。いろいろなインテリアの写真、外観の写真を見て、気に入ったもの、ピンと来るものにふせん紙を貼っていくと、たくさんたまるうちに、自分でもどんな部屋がいいのか、あいまいだったイメージがだんだんハッキリしてくることもあります。

そしてもちろん、工務店に紹介される「先輩」のお宅も、おおいに参考になります。何しろ同じ会社で建てた家ですから、「あのお宅のここをマネしたい」「こっち側はもう少し広くしたい」など、希望を伝えるにはもってこいです。

雑誌や施工事例がイメージのヒントに

 

雑誌や施工事例がイメージのヒントに

 

プロの考える間取りはどう違う?


住宅のプロでなくても、器用な方は自分でかなりしっかりした間取り図を描かれることもあります。それなら、このまま建ててもらえばいいんじゃない?プロの考える間取りと、どこがどう違うの?

間取りの平面図は二次元の紙に描きますが、実際の家はもちろん三次元です。たとえば空間の広さ。狭い床面積しか取れない玄関も、タテ方向が吹き抜けになっていれば十分広々と感じることもあります。また、ちょっとした窓の高さや大きさの違いによって、光の具合や空間の広がり感は大きく変わります。人通りの多い道に面した部屋も、高い位置に窓をつければ人目を気にせず、明るい自然光を取り入れられます。あるいは二階のトイレは便利だけれど、一階の部屋と少しでも位置をずらさないと、真下の部屋にトイレの音がつつぬけ……ということもあります。

こうした空間の感じや、光、風、音のこと、そして上下の関係は、なかなか素人に全部は想定しきれません。希望を十分に伝えた上で、プロの力を借りた方が正解です。

さらに、家をつくる構造、工法や、断熱性などの性能によっても、間取りは左右されます。30畳に柱が一本もないリビングを、木造でつくることはできません。断熱性のよくない家に吹き抜け階段をつくったら、冬は寒くてあとからカーテンや仕切り戸をつけたくなります。逆に高断熱高気密の家なら、家中を同じ温度にできるので、ドアは基本的になくても暮らせます。そういった条件を組み合わせて考えるのが、プロの間取りです。

様々な条件を組み合わせて考えるのがプロの間取り

 

「みんなで居る」場をどう心地よくするかが大事


間取りの中で大事にしたいことは人それぞれですが、多くの家族におすすめできるのは、「みんなの場所」を大事にすることです。

それはリビングが広ければよいというものでもありません。だだっ広いよりも、家族がいっしょにいて居心地よいことが大事です。居かたは家族によってさまざまで、「リビングのテーブルでいっしょにワイワイ」が楽しい家もあれば、「てんでに自分のしたいことをして、でも同じ部屋にいる」のが心地よい家もあります。同じひとつの家に住む家族が、心地よい距離感で、互いの気配を感じながら暮らせることが大事です。

広さよりも「居心地のよさ」が大事です

いっぽう、特にお子さんの小さい家族では、最初から個室にはあまりこだわらず、極端に言えば「あとから仕切りを考える」くらいで十分です。そのときに考え尽くしても、家族の方がどんどん変わっていくからです。

家の構造の方でも、「スケルトン・インフィル」という考え方があります。構造躯体だけしっかりつくっておき、寿命の短い水廻り設備や部屋の仕切りは、あとから変えられるようにした方が、家が長持ちするというものです。つくったらそれっきり変化しない家ではなく、家族とともに成長できる家です。

 

最初にしっかり考えておきたいこと


では、最初に考えておかないと、あとから変えられないことは何なのか。注意したいポイントは、「水廻り」「採光」そして「音」のことです。

水廻り

キッチン、お風呂、トイレなどの水廻りは、設備を簡単には移動できません。キッチンとお風呂を近くにすると給湯設備を共用できるメリットがある、水廻りには音の問題もつきものなど、考えておくべきポイントもあります。また風水を気にされる方は特に、水場の位置が問題になるので、早くから考えておく必要があります。

採光・音

窓の位置、壁の防音性なども、あとからは変えづらい要素です。採光は隣接する建物にも左右され、そのために窓をつけかえる例もありますが、できれば最初に決めておきたいものです。

 

忘れがちだけど、考えておきたいこと


収納

家を建てる人があとから「しまった」と思いがちなのが、十分な収納をもうけること。最近は「ものを持たない」ことに熱心な方もいますが、そうは言っても生活していると持ち物は増えてしまうものです。

通常、家全体の20%の収納があるとよい、と言われます。20%というと、けっこうな面積です。それだけの収納スペースをひねり出すために、屋根裏を使えるようにしたり、キッチンとダイニングの壁の厚みを使った壁面収納、和室の畳を上げた床下収納など、さまざまなワザがあります。収納が大事と言っても、人が居る場所を圧迫しては本末転倒。そこをうまく両立させるのが工夫のしどころです。

階段下を収納

階段下を収納にすると、空間を圧迫せずに十分なスペースが確保できます。

バリアフリー

また、まだ先のことであっても考えてみたいのが、バリアフリーです。今は若い家族も、いずれは年をとります。年配の親があとから同居することもあります。考えたくないことですが、事故や病気で車いすになることもあります。

そういうときのために、車いす用のリフトやホームエレベーターを今から備える必要はありません。かわりに、いざとなったらそういう変更が簡単にできるよう、少し余裕を持った設計にしておく。これだけで「いざというとき」の苦労がずいぶん違います。

風水

もうひとつ、間取りを決める前に確認しておきたいのが、「風水」です。建てる本人が気にされる方であればもちろん、そうでなくても、家族やまわりの誰かが気にされることはありませんか?気にしていないつもりでも、指摘されれば気になることもあります。設計者は慣れているので「しっかり風水」「最低限風水」などいろいろな加減で対応できます。あとから気にするくらいなら、今から少しだけでも気にしておきましょう。

 

現地を見ないとわからないこと 敷地が間取りを左右する


建て替えなどで、その場所の環境をよくご存知の方なら心配ありません。でも土地を新しく購入して建てる場合など、そこがどんな生活環境なのか、なかなかすぐにはわからないもの。これが意外と間取りを左右します。

野原の一軒家でもない限り、隣接する家との関係は大事です。窓と窓がぴったり向き合ったりして、せっかくの窓が「開かずの窓」になっては、目も当てられません。また隣の屋根の形、二階や三階の配置によって、こちらの光も風も、風景も変わります。

これを確認するために、工務店によっては「現地調査」、特に生活環境としての条件を調査します。四方の家や道の寸法、距離、窓の位置関係はもちろん、1日そこに陣取って、何時にどう光が射すか、隣家の影がどう落ちるか、通勤時間帯の交通量はどうか、確認します。これをふまえて初めて、本当に現実的な間取りが描けます。

同じ形と面積の敷地でも、道がどちら側にあるかによって間取りは変わります。道に接して門があり、玄関につながり、廊下がある。それによってリビングを置ける位置も変わってきます。必ずしも南向きの敷地だけがベストというわけではなく、北向きの敷地はプライバシー重視の間取りをつくりやすいなど、それぞれのよさがあります。

周囲がたてこんだ敷地では、リビングを2階に上げてしまうことが多いですが、2階でも目の前は隣の家。それでも適切な位置に高窓をつくれば、自然光あふれるリビングは手に入ります。敷地環境の欠点をカバーし、個性を活かすことで、ユニークで快適な間取りがつくれます。

敷地の周辺環境の調査例

この敷地の特徴・間取りのプラン例

この敷地は、三方を2階建ての家に囲まれ、東側の道路は通勤・通学の時間帯は特に交通量が多い土地でした。

同じ高さに窓をつくると近隣の視線と重なるため、通風方向を把握したうえで高窓を設置。住宅密集地にありながら、プライバシーに配慮した、開放的で十分な光と風が得られるリビングが実現できました。

 

決め手は新生活への思い


新生活の夢を伝えて、プロに間取り図を描いてもらった……でも納得いかないこともあります。そういうときは、その間取り図の何が気に入って、何が気に入らないのか、自分でもう一度考えてみましょう。それがなければ、何枚描いてもらっても同じことの繰り返しになる可能性が高いからです。

そのとき判断基準になるのはやはり、「自分が何を大事にしたいか」、その優先順位です。何もかも詰め込むのはできない相談です。自分がいちばん大事にしたいのは何か、そのために我慢してもよいことは何か。それを設計者にしっかり伝え直すことが、自分にとっての「気持ちよく暮らせる、素敵な間取り」への道です。

をかなえた間取り case
理想の「和風の玄関」を実現したAさん宅
最初の提案プラン

工務店からは初め、玄関から見て階段の手前に飾り棚のあるプランAと、玄関から階段の見えるプランBが提案されたが、相談するうちに「独立した空間のある、和風の玄関がほしい」という思いがはっきりしてきた。

planA 階段の手前にある飾り棚のあるプラン

planB 玄関から階段の見えるプラン

修正案から、最終案へ

その思いを伝えたところ、出てきたのが、玄関に応接スペースを組み込んだプランCと、玄関からホールまでの見通しを広く取ったプランD。

planC 玄関に応接スペースを組み込んだプラン

planD 玄関からホールまでの見通しが広いプラン

打合せの席で希望を伝えながら何度も図面を描き変えてもらい、最終的にはCに手を加えたプランEに落ち着いた。玄関のとり方によって階段の位置や向きが変わり、階段の位置関係によって1・2階両方の部屋が影響を受けるので、全体の整合性を取るのがたいへんだったが、まずまずイメージどおりの玄関が実現できた。

 

PlanE 最終決定案!

をかなえた間取り case
「木造では無理」と言われた、ひろびろ特大LDKのあるBさん宅
化粧筋交いで夢を実現

広いLDKが欲しくて「できるだけ開放的に」と相談する中で、吹き抜けのリビング、階段、ダイニング、キッチンがぜんぶ仕切りなしでつながるアイデアが出てきた。これがすっかり気に入ってしまったが、構造上、どこかに柱と壁を入れないと無理だと言う。一度は別の間取りも考えたが、あきらめきれず再度相談。筋交いを壁の中に入れるのでなく、見た目のきれいな鉄筋の「化粧筋交い」を使うことで、リビングとダイニングキッチンが無理なくつながった。家の中心に大きな空間を確保できて、大満足。

このプランでは、デザイン性の高い鉄筋で筋交いしているため、希望通りのおしゃれな大空間と、建物の強さを両立することができ-

次は、「高断熱高気密の性能」について

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